『ルース・エドガー』、雑感…(ネタバレあり)。

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MCUキャプテン・アメリカ』シリーズの第4作『Captain America: New World Order(原題)』の監督、ジュリアス・オナーの作品を見ておこうと思って鑑賞。

アメリカはバージニア州で白人の養父母の元に暮らす高校生ルース・エドガーを中心に、彼が危険な思想に染まっているのではないかと疑う高校教師ハリエット・ウィルソンとの対立を描く作品。

アメリカで黒人はどの様に振舞わなければいけないのか?を2人の対立とその間で揺れる事になる白人の両親の目線を通して見せていく作品で、Netflixで配信されているドキュメンタリー『13th 憲法修正第13条』や、ディズニープラスで配信されたドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で描かれた、黒人は失敗が許されない、品行方正でいなければいけない、という白人と同じ行動や言動をしても往々にして黒人はアメリカ社会において良い意味でも悪い意味でも同様の結果を得る事が出来ないという問題を緊張感のある撮り方で語っていく。

音楽の使い方も良くて、特に劇中で何度か使用される「Skyhooker」はルースの心情を決して全ては見せないという本編でのルースの描き方と重なり、不穏さが最大限に表現されていて好み。

ジュリアス・オナー監督が手掛ける『キャプテン・アメリカ』における黒人のキャプテン・アメリカの選択・決断をどう描くかも楽しみになる作品でありつつ、音楽の使い方とか撮り方など、ドラマ面だけでなくアクション面にも期待が膨らむ作品で、そういう意味でも見て良かった作品だった。

『別れる決心』、雑感…(ネタバレあり)。

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映画『お嬢さん』のパク・チャヌク監督の最新作。冒頭の後輩に上着を着せてあげるヘジュンの描写で、もう何か普通の映画とは違う事が伝わってくる感覚が面白い。その後も取り調べ中の食事に高級(?)なお寿司を用意したり、食べ終わった容器を尋問相手のソレと一緒に手際良く片付けたりと、一つ一つの行動から人物の性格が表されていく部分など、映画を楽しめる要素に満ちている。

一見完璧にも見えるヘジュンがソレと関わっていく事で少しずつ崩壊していく様もどこか喜劇的で、再び行う事になる尋問中の食事選びで子供染みた嫌がらせをしたり、それの再婚相手の指慣らしを無意識なのか真似してしまったりという部分も面白い。

いわゆる「運命の女(ファム・ファタール)」に翻弄される男を描いたノワールものに思える所もありつつ、『ナイトメア・アリー』の様に「運命の男」を中心にした物語だと思うと、人生の節目に現れる魔性の男を愛し続けるソレの目線でもう一度、映画を見返したいし、同じく「魔性の男」に翻弄されるヘジュンの妻や後輩のスワンの目線から描いた短編も見てみたい所。

息遣いや日常における細やかな部分をフェティッシュに撮影する所は『お嬢さん』を彷彿とさせ、この辺りもパク・チャヌク監督作を見ているという感じがして面白かった。

『アントマン&ワスプ:クアントマニア』、雑感…(ネタバレあり)。

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アントマン』シリーズの3作目。監督は前作・前々作に続きペイトン・リード。

脚本がアニメ『リック・アンド・モーティ』にも関わっていた人という事で楽しみにしていた本作。『リック・アンド・モーティ』自体が科学者のリックとその孫モーティを中心に、並行世界やタイムトラベルなど、SFというジャンルで滅茶苦茶の限りを尽くすコメディで、かつその中心には1つの家族の物語・活躍があるという作品だったので、本作『クアントマニア』の設定的にもピッタリ。

カーンの一連の描写なんかは完全に『リック・アンド・モーティ』で描かれた並行世界関係のエピソードそのままな感じで、これからのMCU世界でのカーンの活躍や結末が楽しみになる一方、ジョナサン・メジャースが演じたカーンが魅力的だったかというと微妙で、ドラマ『ロキ』でメジャースが演じたカーンの変異体である“在り続ける者”の方がキャラクターとしては魅力的だった。

作中で様々な世界のアベンジャーズのメンバーを倒してきた…的な描写もあるけどいまいち説得力に欠けるし(本作のカーンが万全の状態では無かったのかもしれないけど)戦い方もアイアンマンとワンダを足したような感じだし、最終的には物理で殴るだけというのも、スコットの見せ場的には仕様が無いのかもだけど…な感じ。カーンを演じたジョナサン・メジャース的にはこの後『クリード3』というボクシング映画が控えているので、そっちの方が格好良いだろうなという感情も鑑賞中によぎって盛り上がりに欠けてしまう…。

その後アントマンがカーンとの決着後に量子世界にホープと共に閉じ込められてしまう…とかだったら、前作のラストの事もあって今後の作品が楽しみになるけど、特に問題なく元の世界に戻ってくるので、『アントマン』らしい軽さはあるけれど…なのも難しい所。

『リック・アンド・モーティ』では別の世界が壊れても全然気にしないというノリでお話が進んだ先に、とんでもない混乱が訪れるという感じだったので、無邪気に世界を壊していたら取り返しのつかない状態になってしまった…という恐怖がMCUの世界にも訪れる事を期待したい…。

お話の進め方や一部のキャラには疑問も多い本作だけど、スコット・ラングというキャラクターのヒーローとしての在り方や、娘キャシー周りの描き方はとても好きで、スコットがかつて社会という大きなシステムの中で困窮している人達をロビン・フッド的に助けようとして服役していた過去とつながるように、サノスの指パッチンで家を無くした人達のデモに参加して警察に捕まったりと、理想の父親になりたいというスコットの思いを超えて、キャシーにとってはスコットが理想のヒーローとして記憶されているというのが熱く、ただ一心に娘を助けようとするスコットが最終的にはカーンの圧政に苦しむ人達を救うという展開も、冒頭で自分が次に出来る事は何なのか悩んでいたスコットが娘の後を追う事によって、娘の理想である、そしてかつて既にそうだったヒーローの姿に立ち返るという流れは、『アントマン』3作目としても凄く好き。

キャシーがモードックことダレン・クロスに「クソ野郎はいつでも止められる」的な事を言ってダレンが改心する展開も、『アントマン』シリーズの良い意味での軽さがあるからこそ出来る流れなのかなという気がするし、何か重大な出来事があって初めて人は変わる事が出来る…みたいな物語の中における悪役がキャラ変する時に必ず経なければいけないお約束をサラッと流してくれる所も気持ちが良い。

スライムのような穴の無い生命体のヴェブの伏線回収や、今までのシリーズではあまり出番が無かったジャネットの活躍、『ロ・ド・オブ・ザ・リング』のガンダルフの様なハンクのお助けシーンなど、魅力的に描かれるキャラクターが結構多いのも嬉しい。

ビジュアル的には観る前の段階では『スター・ウォーズ』っぽいと噂されていたのでそちらを意識しながら観ていたけど、どちらかと言うとフランスの漫画『アンカル』の作者であるメビウスの世界という感じで、戦士ジェントーラも正しくそのイメージ。生きている建物や『ロキ』の長回しシーンを思い出させるカメラワークとか、ビジュアル面では概ね満足。主人公サイドのキャラクターにも魅力を感じられたので、『アントマン』シリーズの中では本作が一番好みかも。

何かとMCUシリーズの流れを決める重要な役割を与えられがちなイメージなので、ドラマでも良いので日常ドタバタコメディを気軽に楽しめる『アントマン』単品も何時かは見てみたい。

2022年(に見た)映画ベスト10

2022年映画ベスト10

※今年見た初鑑賞映画は177本

1、『NOPE/ノープ』

2、『バッドガイズ』

3、『トップガン マーヴェリック』

4、『ガンパウダー・ミルクシェイク』

5、『メタモルフォーゼの縁側』

6、『私ときどきレッサーパンダ

7、『あのこは貴族』

8、『恐怖ノ黒電波』

9、『ギレルモ・デル・トロピノッキオ』

10、『ただ悪より救いたまえ』